製品用素材としての革は世界中に無数に溢れており、これがベストといえる素材は存在しません。 製品用途によって、また手触りや色目などの好みなど「最良の選択」は十人十色で、ルシアーレザーではオーダーメイド工房としてお客様ごとのさまざまな好みにお応えできるよう世界中から良質な革素材を多種多様に取り揃えています。
革っぽさ、柔らかさ具合、エイジング、発色具合、色の透明感、表面の肌理、艶、しっとり感など、これらすべてはお客様の印象でベストを決定していただけ、当工房では
お選びいただいた素材を元にその素材の持つ特徴を、良さを最大限活かし、製品種類に応じてさまざまな技術を駆使して使いよい製品を創り上げています。




   
革は天然素材であるため全面が均質ではなく、表面には傷や皺、汚れなどがあり、まずこれらの部位は避けます。次は表皮下の繊維層に注目、食肉では部位によりロースやモモなど価格も質も異なりますが、革もこれに同じく部位によって皮下組織の繊維(コラーゲン)層の密度が異なり、これが製品の強度や耐久性に大きく影響します。 例えばベンズと呼ばれる背中から尻部分は繊維がよく締まっており、芯材を用いない革だけで強度を確保する製品用途に適していますが、ベリーと呼ばれる腹部分は繊維密度が緩く、この部位を含んだ製品は裂けや変形など耐久性が大きく劣ります。新品時に外観だけで使用部位を判断することは困難で、量産品ではこういった部位選別が実施されていない製品も多くありますが、ルシアーレザーではこれらの部位を避けて製品を製作していますので末永く安心してお使いいただけます。
   

量産品ではプレス機による金型打ち抜きが一般的ですが、ルシアーレザーではすべての部品型は革包丁やデザインナイフでの手裁断によって切り出されています。
型紙を革に置いて裁断場所を決定する「型入れ」と呼ばれる工程では染みや皺、傷を避けるほか、革繊維の流れる方向性を検討します。 革の繊維層は伸び(曲げ)やすい、伸び(曲げ)にくいなどの方向性を持っており、製品表面からこれを確認することはできませんが、繊維の流れを無視して裁断した場合、特に厚革で構成される製品では使用が進む過程でねじれが発生することがあります。
ルシアーレザー製品は型崩れ、ねじれが発生しないようパーツ1点ごとに繊維の伸び方向を検討して裁断部位を決定していますので、手裁ち裁断の方が早く作業できるのです。

   

裁断が終わったら各パーツに調整加工を施します。
一部の製品では革の裏面が露出する部分があり、裏面は繊維層であるためそのままにしておくとこれがほぐれてパサパサとなってしまいますので、これを防ぐため「布海苔」溶液を塗布して磨くことで毛羽立ちを抑えます(画像参照)。
次に裁断した断面はカドが立っており、このまま使用するとこのカドがボロボロになってしまうため、カド部分を面取り加工します。
このほか厚い革を複数枚縫い重ねる部位では、仕上がりの断面が厚くなりすぎて不格好になってしまいますので、縫製前にこの部分だけをを薄く加工しておくことで本体の必要強度(厚さ)に影響なく製品の木端(断面)を薄くスマートに仕立てています。
   

露出した糸は摩擦が繰り返されるといつか切れてしまいます。これを防止するため縫製ライン上にあらかじめ溝を彫ることで糸を溝に埋め、擦れによる糸切れを予防しています。薄革製品では彫ってしまうと革強度が不足するため彫ることはせず筋入れを施し同様の効果を得ます。
次にこの溝に針穴を先にあけます。 牛ヌメ革は堅く、製品によっては5mm以上の革を重ねて縫うこともあるため布帛のように直接針で穴を開けながらの縫製はできず、縫製前には菱錐と呼ばれる先端が菱形の錐を使ってすべての針穴を一目ずつ先にあけておきます。この工程では糸に合わせた穴の大きさ、必要強度に応じた糸目ピッチも調整します。
ミシン製品にはないこの工程は非常に手間といえますが、菱形の穴形状により縫い上がった時の糸目が非常に美しく仕上がります。
   

ルシアーレザーでは柔らかい鹿革などミシンの方が適した素材ではミシン縫製を取り入れていますが、これら一部を除くほとんどの製品は総手縫いによる仕立てです。 ヌメ革の縫製は一般的な布帛のように扱い易いものではなく、部位による必要強度の違いを糸の太さや縫い目のピッチで最適に調整し、均質ではない革に対して一針ずつテンション調整しながら縫い進めることが必要で、これを確実に行うには五感を駆使できる手縫いが最も確実な手法であると考え、ルシアーレザーの牛ヌメ革製品はすべて手縫いにて製作しています。
また手縫い独自の「サドルステッチ法」と呼ばれる縫い方はミシンでの縫製とは違い、革の両面から二本の針で交差を描くように縫い進めるため、万一の糸切れの際にもスルスルと糸抜けすることがないという利点も持っています。
いずれにせよ修理は必要ですが、そのまま使用を続けても当面の使用に耐え得るほど頑丈に縫うことができ、特に厚革を強いテンションで縫うような製品の場合このメリットは重要なものとなります。
   

裁断した革の木端(断面)は、革の裏面同様に繊維層が露出しており、床面と同様に毛羽立ちを抑える処理をする必要があります。 ルシアーレザーではこの部分をカンナで整形し、ヤスリでほぼツルツルになるまで仕上げたのち、「切目本磨き」仕上げという手法を用い、天然フノリを塗布し手磨きにて磨き上げることで露出した繊維層の毛羽立ちを抑え、磨くことで出る艶は膜を張ったような美しい仕上がりとなります。このほか色革を使った製品ではヤスリ仕上げの後にイタリア製のコート剤を塗布する製品もあり、各製品の用途・仕様に適した手法を使い分けています。
※画像上段は切目本磨き仕上げ、下段はコート剤塗布仕上げです。
   




ルシアーレザー製品は例え小さなキーホルダーであっても上記の工程を何一つ省くことなく丁寧に制作しており、今後もずっとこの製法を守ってゆきます。
量産・短納期とは縁遠い手法を採用している故、結果としてお客様にはお届けまでお待ちいただくこととなる上、工程の多さから生産性やコストが犠牲になってしまいますが、所有満足感や永くお使いいただいた際の品質の維持、耐久性を念頭に置いたとき、この旧来の製法が最良の選択と考えております。
財布を1本仕立てるのに要する時間はおよそ2日、その間ずっと一枚の革に集中し、流れ作業ではなく真剣に取り組んでいるからこそ、これまでお作りしたすべてのオーダー製品は写真一枚で製作時の情景を思い出すことができ、修理で戻って来た時には嬉しく、懐かしさすら感じます。
あくまでも感覚の問題ですが、手裁断や手縫いというアナログな製法を経て出来上がったというプロセスがお客様にとって末永く、愛着を持って大切にお使いいただける要素となるのでは、と考えています。
ぜひ一度ルシアーレザーの製品を手にとって、工業製品との「温度差」を感じてみて下さい。